第58号特集テーマ

特集「教育における和解への模索」

 21世紀にはいっても、世界では多くの戦争や紛争が繰り返されている。「心のなかに平和の砦を築く」(ユネスコ憲章前文)という教育の究極の目的に向かう道のりの、我々はどのあたりにいるのだろうか。民族、言語、宗教など、様々な文化的相違が相手を他者化し、非人間化する材料として動員される現実に対して、異なる集団や文化の間にたって人々をつなぎ、ともに生きる未来を切り拓こうとする教育は、何をなしえたのか、そして、今後何が求められるのか。これまで積み重ねられてきた努力を振り返り、今後の課題を共有する機会として、「教育における和解への模索」を特集テーマとしたい。
 和解(reconciliation)は、オーストラリアやカナダにおいて、先住民族の子どもたちに対して行われた同化政策(強制的な親との引き離しや寄宿学校での虐待など)と、それらが世代を超えてもたらした傷に対する謝罪や補償を意味するキーワードである。1980年代から90年代にかけ、自国の負の歴史に向き合おうとする動きは世界各国に広がったが、和解への道のりがいかに険しいか、はてしないかは日本の経験からも明らかである。
 本特集では、武力紛争や侵略の当事者となった国家や民族間の和解を扱った論文や、近代以降の植民地主義の歴史のなかで苦しんできた先住民族や少数民族との和解を扱った論文を広く募集する。これまで『異文化間教育』で取りあげられることが少なかった歴史的、政治的なテーマの論考を募集することによって、異文化間教育学会における研究の視野やネットワークの拡大もはかりたい。会員の皆さんからの積極的な投稿を期待する。

【テーマ例】
①先住民族、少数民族との和解、格差解消に向けた教育政策や実践
②教育における脱植民地化、奪われた言語や文化の復興
③戦争、紛争を経験した民族間、国家間の和解に向けた教育交流、対話