第64号特集テーマ

特集「異文化間教育と人権-歴史的・構造的視点からの示唆-」

アメリカやドイツなどで、政権交代をきっかけとした移民・難民に対する規制やバックラッシュが起きている。ホスト社会に包摂していくための取り組みが依然としてある一方で、排除していく構造がより強化される傾向が見受けられる。日本においても、在留外国人や日本語指導が必要な児童生徒の数が増加し続ける中で、労働力確保のために、「家族滞在」の在留資格にかかわる緩和策が出され、技能実習制度も「育成就労」制度へと改編されたが、一方で入管法改正で永住権者や難民認定をめぐる制限が設けられ、在日コリアンだけでなくクルド難民への風当たりも厳しくなっている。

このように、「包摂」と「排除」の相反するベクトルが多文化共生施策からみられる傍ら、1990年代以降の異文化間教育研究において、新自由主義の影響を受けながら「集団」よりは「個人」の状況に焦点を当てた研究が多くなってきている。戦後「放置」されてきた在日コリアンの民族差別撤廃を求め権利を取り戻していく運動も、1980年代の指紋押捺拒否運動後は、アイデンティティ・ポリティックスの限界や課題を受けて下火になり、社会的関心も低下して、在日コリアンはいつの間にか「不可視化」している。それ以降、マイノリティの「集団」としての権利主張は、社会的議論の俎上に載せられないまま、今日に至っている。

移民社会に向けての現実がよりリアルさを増していく中で、オールドカマーとニューカマーを断絶・分断することなく、捉えていくためには、歴史的・構造的な枠組みや視点から考えないかぎり、問題の本質は変わらない。 

本特集では、ニューカマーの抱える問題が再生産されている状況を、朝鮮学校や外国籍教員をめぐる課題、難民問題に関わる論文などを通して、異文化間教育を考える上で歴史的・構造的な視点の重要性を再認識するとともに、日本における移民の議論に改めてオールドカマーを含めて拡大させていくことを目指したい。

【テーマ例】
人権にかかわる問題など:外国籍教員、難民、朝鮮学校、中国帰国者、在日コリアン 他