第28回異文化間教育学会研修会

第28回異文化間教育学会研修会
多様なセクシュアリティへの理解を深めるオンラインワークショップ-演劇的手法を用いて当事者の視点から考える―

案内
第28回異文化間教育学会研修会のお知らせ

研修テーマ

多様なセクシュアリティへの理解を深めるオンラインワークショップ-演劇的手法を用いて当事者の視点から考える―

概要

 現在、様々な文化背景をもつ人達と共生し、誰もが個性、強みを発揮できる社会が目指されています。多様性が尊重される社会の実現には、マイノリティとして生きづらさを感じている人の視点から問題を理解することが重要です。
 本研修では、多様なセクシュアリティに焦点をあて、認定NPO法人 虹色ダイバーシティの村木真紀氏を講師としてお迎えし、性の多様性について学びます。次に、それらに纏わる問題を当事者の視点から理解を深めるために、大阪成蹊大学の川島裕子氏が演劇的手法を用いたワークショップを行います。今回は、問題を多角的に理解し、新たな可能性を探るため、フォーラムシアターという手法を用いて、当事者の気持ちや考え方について対話を通して紐解いていきます。

日時

2020年12月20日(日)13:00~16:30

開催方法

ZOOM(オンライン)

活動内容

  1. 講演
    村木真紀氏 (認定NPO法人 虹色ダイバーシティ)
  2. ワークショップ(グループワーク有)
    川島裕子氏(大阪成蹊大学)

定員

先着30名

参加費

無料

お申し込み期間と方法

  • ①以下のURLからお申し込みください。(先着30名)
    ※11月20日(金)までは異文化間教育学会の会員の方を優先いたします。
    https://www.kokuchpro.com/event/d31300cb35d7c8bd3ac0d46ae7e49360/
  • ②参加の受付が完了した方には、研修会の参加前に、ご登録頂いたメールアドレスにZOOMの招待リンクを送らせて頂きます。

問い合わせ先

吉田千春(中央大学)chiharu-y[at]tamacc.chuo-u.ac.jp([at]を@に変更してください。)

主催

異文化間教育学会企画・交流委員会
川島裕子(大阪成蹊大学)・工藤和宏(獨協大学)・中野祥子(山口大学)野山広(国立国語研究所)・吉田千春(中央大学)


報告
2020年度 異文化間教育学会 第28回研修会報告

研修テーマ「多様なセクシュアリティへの理解を深めるオンラインワークショップ-演劇的手法を用いて当事者の視点から考える―」

企画・交流委員会

◆日時:2020年12月20日(日)13:00~16:30
◆開催方法:ZOOM

◆講師:
〔講演〕村木真紀氏 (認定NPO法人 虹色ダイバーシティ)
〔ワークショップ〕川島裕子氏(大阪成蹊大学)
◆参加者:
会員15名、非会員(一般)6名、非会員(学生)3名の計24名
学生ファシリテーター:7名
◆参加費:
無料

【研修の内容と参加者の声】

 今回の研修会は、多様なセクシュアリティへの理解を深め、当事者の視点から体験することを目的に、講演とワークショップの2部構成で行われた。新型コロナウイルス感染症の影響により、全てオンラインで実施した。参加者は約8割が教員であった。
 第1部は村木真紀氏の講演「多様なセクシュアリティへの理解を深める」である。多様なセクシュアリティの基礎知識から、LGBTに関する社会的課題、日本社会の変化、職場の取組、ハラスメントの具体例、アライ(LGBTQの課題に自分ごととして取り組む人)の重要性、施策や研修の効果、歴史的な背景やスティグマ、マイクロアグレッションとの関係などについて、調査結果、具体例、ご自身の経験などを織り交ぜ、講演が行われた。
 参加者へのアンケート(自由記述)からは、次のような感想・コメントが得られた。

  • 非常に密度の濃い内容でした。アライやマイクロアグレッションなど新しい概念を学ぶことができましたし、様々な調査結果から客観的に動向を知ることができました。
  • 客観的なデータと生の声を織り交ぜて、やさしい声のトーンで伝えてくださったので、切々とメッセージが伝わってきました。親しい友達にLGBTの人がいます。彼が抱えていた生きづらさを今日はじめてわかりました。本当の意味でのアライになれるようになりたいと思いました。
  • スティグマ、トラウマ、心の葛藤、日常的な傷つきについてのスライドが心に残りました。第2部のワークに関わる部分でもあり、ワーク後に改めて振り返りたい点にもなりました。
  • 多角的多面的にLGBTQを取り巻く状況の問題点、当事者の声が聴けて大変よかったです。教育の課題は多いですが、それでも教育でできることもあると前向きな気持ちでとらえることができました。

 第2部は、川島裕子氏による演劇的手法を用いたワークショップである。ワークショップの流れは以下の通りである。まず、6つのグループに分かれ、多様なセクシュアリティに関連して予め設定された「場面」「登場人物」「問題の例」をもとに、問題場面の台本作りを行った。次に、各グループの台本を、朗読劇として全体で共有した。そして、投票で選ばれた1つの台本をもとに、ホットシーティングの手法を使い、当事者の考えや思いを掘り下げた。最後にその「問題」を含んだ場面をいかに改善できるかをグループごとに話し合い、修正版台本作りを行い全体で共有した。

① 台本づくりと役づくり(問題の認識)

  • グループごとに「場面」「登場人物」「問題の例」を確認する
  • 役決め
  • シーン作りと読み合わせ

② シーンの共有(問題の共有)

  • 作成したシーン(台本)を朗読劇として共有

③ グループの選択

  • 全体で議論するシーンを選出

④ ホットシーティング(問題の多角的理解:当事者の気持ちや考え方を対話を通して紐解く)

  • 選ばれたシーンを再度朗読する
  • 当事者の気持ちや考え方を対話を通して紐解く
    他の参加者:演じられたシーンで気になったことを質問する
    発表者:質問に対して役としての自分の考えや思いを答える

⑤ 改善シーンづくり(別の可能性として、改善案を練る)

  • 最初のグループに分かれ、ホットシーティングで扱ったシーンについて、議論を参照に修正する
  • 役決めと読み合わせ

⑥ 改善版シーンの共有(改善策の共有)

  • 新しいストーリーを全体で共有

参加者へのアンケート(自由記述)からは、次のような感想・コメントが得られた。

  • 演劇的手法を用いたワークショップは始めてでしたが、スクリプトを考えることが、その人物のおかれた設定や感情、表現を考えることになり、その立場になりきる難しさを感じましたが、楽しいひとときでした。
  • 初めての経験でした。会話を作成しているうちに自身が持っている固定観念が如実に表れていることに気が付きました。それを読み返し、「私、もしかしたら言ってしまっているかも」「こんな風に人を見ているんだ」という衝撃と学びがありました。そして修正するという活動を通すことで、じゃあどうすればいいのか?と同じチームのメンバーと考えていくタスクは大変楽しく勉強になりました。
  • 言葉の力強さを客観視することができました。「どんな男性が好き?」や「そんな人間」と行った言葉を文章にすることで客観的に捉え、それが全体の雰囲気を悪くしたり、差別を作り上げていると分析的に見ることができました。ロールプレイとはまた違う、言葉とその言葉が作る環境を分析的に見ることができる良い演劇手法だなと考えました。
  • 役を演じることで、「なんであの時あんなことを言ったのか?」と話し合うときに、自分が責められたわけじゃないのに、役と同じ気持ちになり、役をフォローしたくなりました。それも演劇だからできることだと思いました。

 研修会終了後は、村木氏や川島氏をはじめ、参加者、学生ファシリテーターなど約十数名が残り、20~30分ほど感想や情報の共有が行われた。

 今回の研修会は、全員が「参加して良かった」と回答した。また、3時間半にわたる長時間のワークショップだったが、「講演とワークショップの一連の流れが良かった」、「学生ファシリテーターがいたことで、スムーズにグループワークを行うことができた」という声を多く頂いた。また、初めてオンラインで演劇的ワークショップを試みたため、物理的に空間を共有しない中で、身体的体験がどれだけ期待できるのか試行錯誤しながら準備を進めたが、参加者からはオンライン朗読劇という形態においても感じ取るものが多かったという意見が多く聞かれた。
 今回の研修会の課題としては、主に次の2つが挙げられる。第一に、参加方法のデザインについてである。今回は、後半の演劇的ワークショップの人数に合わせ、募集を30名に限定した。しかし、村木氏の講演は、人数制限を設ける必要はなく、多くの方に聞いて頂きたい内容であった。キャンセル待ちの方も一定数いたため、講演とワークショップを分けて募集することで、より多くの方に参加して頂くことができたと考える。
 第2に、演劇的ワークショップについてである。フォーラムシアターは、参加者が実際に当事者として体験したことを劇として再現し、その経験を演じ直すことで出来事を批判的に捉えたり、参加者のエンパワメントを目指す手法である。今回は時間的な制限があったため、あらかじめ設定した場面や登場人物をもとに台本作りを行った。このような演劇的手法の留意点として、「保守的な上司、LGBTQに理解を示せない父親、差別的な男性の友人、という設定自体が差別の固定化を生んでしまうのではないか」という指摘があった。また、「なってみる」「感じてみる」体験は他のものでは味わえないほどのインパクトがある分、トラウマを引き起こす危険があるという課題が共有され、そのためにも場の雰囲気作りが重要だという声が多く聞かれた。これらの点に関しては、今後さらに探求していきたい。
 今回、初めてのオンライン開催ということで、課題はあったものの、海外や国内各地からの参加者が混ざり、チャットへの書き込みも多く、オンラインの場づくりとして新たな可能性を感じることができた。
 研修を盛り上げてくださった参加者の皆さん、講師の先生方、学生ファシリテーターの皆さん、ご協力頂いた方々に心から感謝致します。本当に有難うございました。