第32回異文化間教育学会研修会

みんなで考えよう-異文化間教育研究のグローバル展開-

第32回異文化間教育学会研修会のお知らせ

研修テーマ

みんなで考えよう-異文化間教育研究のグローバル展開-

概要

異文化間教育学は、国際問題や地球規模の問題(移住、紛争、気候変動など)との関係が深く、専門家によるグローバル規模での学術的貢献がますます重要になるでしょう。また、国内外において研究者が実践者と協働して現場にかかわり、変革を目指す実践志向の研究が蓄積されてきました。しかし、異文化間教育の研究活動の国際化やグローバル展開についての知見は少なく、系統的な議論はあまり行われてきませんでした。

そもそも、グローバル展開とは何を意味するのでしょうか。国際言語としての英語を使って、国際学会・研究会、学術誌、著書、ホームページなどで研究成果を公表すれば十分なのでしょうか。あるいは、海外の研究者と研究交流をし、国際共同研究をすることでしょうか。グローバルな環境で研究活動を有意義に展開させるためには、現役そして次世代の研究者には、どのような知識や技能が必要でしょうか。そのために、学会は何をすべきでしょうか。

本研修会は、国内外で精力的に研究成果を発信している研究者と日本から世界への学術的貢献を志す大学院生の経験を頼りに、異文化間教育研究のグローバル展開の意義と課題を検討します。他の参加者とのディスカッションを通じて、個人の研究活動のグローバル展開についての理解を深めるだけでなく、異文化間教育学会が果たすべき役割についても具体的に検討します。奮ってご参加ください。

日時

2022年11月20日(日)13:30~16:30(180分)

開催方法

ZOOM(オンライン)

内容

司会:工藤和宏

1.導入と趣旨説明

2.話題提供:異文化間教育研究のグローバル展開について考える

  徳永智子「地域貢献とグローバル展開のはざまで-越境する研究者の視点から-」

  櫻井勇介「私の国際経験の意味とこれからの国際活動」

  程文娟・猿田静木「国際的な学術活動を志向する大学院生はどのような葛藤を抱えているのか?」

              質疑応答

(休憩)

3.話題提供を交えたブレイクアウトルームでのディスカッション

4.全体共有とまとめ

話題提供者:

徳永智子(筑波大学准教授)

米国メリーランド大学大学院教育学研究科博士課程修了、Ph.D.(教育学)。専門は教育社会学、教育人類学。日本とアメリカで移民の若者の居場所づくりやエンパワメントに関する参加型アクションリサーチ(PAR)に取り組んでいる。アメリカ人類学会(AAA)教育人類学部会若手研究者奨励賞、アメリカ教育学会(AERA)アジア系アメリカ人の教育研究部会最優秀博士論文賞などを受賞。主著にLearning to Belong in the World: An Ethnography of Asian American Girls(Springer, 2018年)(第8回日本教育社会学会奨励賞著書の部受賞)がある。

櫻井勇介(広島大学准教授)

マレーシア、エジプトでの勤務ののち、フィンランド、ヘルシンキ大学高等教育研究開発センター(当時)博士課程を2015年に修了。東京大学、お茶の水女子大学を経て、2022年より現職。国際的な場での学びや能力開発の経験を研究、評価して体系化することを目指している。特に大学留学生、外国語を学ぶ学習者、外国人研究者等について注目する。タイ、オーストラリアでも職務ならびに長期滞在経験がある。Journal of Research in Innovative Teaching & Learning (Emerald) 2022 Literati Award受賞。

程文娟(広島大学大学院博士後期課程)

広島大学教育学プログラム高等教育コース在籍。日本の高等教育の国際化に関心を持ち、特に博士学生の国際的な活動に着目して研究を進めている。現段階では、日本における博士学生の論文出版の言語選択とその動機付けに関する研究を計画している。今後、博士学生の国際的な活動への参加経験と彼らのウェルビーイングに関する理解を深めていきたい。

猿田静木(広島大学大学院博士後期課程)

お茶の水女子大学英語圏言語文化コース卒業後、同大学大学院人間文化創成科学研究科日本語教育コースにて人文科学修士号を取得。数年間の社会人経験の後、2022年から広島大学大学院人間社会科学研究科高等教育学コースに在籍。異文化に身を置く人々の心理に興味があり、現在は大学院生と日本語教師の二足の草鞋で日々奮闘中。

司会:

工藤和宏(獨協大学准教授、マードック大学名誉リサーチ・フェロー)

豪州マードック大学にて博士号(Ph.D.)取得。ポジティブな異文化接触の概念化と、その教育・政策面での応用を目指して研究中。その成果をEducational Research Review (Elsevier)、Studies in Higher Education (Routledge)、Higher Education (Springer)などのトップジャーナルに掲載。また、Higher Education誌を中心に100本以上の英語論文を査読。豪州国際教育協会(IEAA)Excellence Awards 2022 High Commendation(研究部門優秀賞)、マードック大学教育学研究科Murdoch Teacher Education Prize(最優秀博士論文賞)などを受賞。

定員・参加費

定員:先着50名
参加費:無料

お申し込み期間と方法

①以下のURLからお申し込みください。(先着50名)

※11月6日(日)までは異文化間教育学会の会員の方を優先します。
それ以降は、どなたでもお申し込みいただけます。

https://kokc.jp/e/2a1bf7f812f7f494110bd57522f40abf/

②参加の受付が完了した方には、研修会の参加前に、ご登録頂いたメールアドレスにZOOMの招待リンクをお送りします。

問い合わせ先

k03040[at]dokkyo.ac.jp [at]を@に変更してください。

主催

異文化間教育学会グローバル展開委員会

工藤和宏(獨協大学)・徳永智子(筑波大学)・筆内美砂(立命館アジア太平洋大学)・渡部由紀(東北大学)

第32回異文化間教育学会研修会報告

研修テーマ「みんなで考えよう:異文化間教育研究のグローバル展開」

                           グローバル展開委員会

◆日時:2022年11月20日(日)13:30~16:30

◆開催方法:オンライン(ZOOM)

◆司会:工藤和宏(獨協大学)

◆話題提供:徳永智子(筑波大学)、櫻井勇介(広島大学)、程文娟(広島大学大学院)、猿田静木(広島大学大学院)

◆参加者:35名

◆参加費:無料

異文化間教育学は、人類が抱える地球規模の課題(国際紛争、海外移住、気候変動など)との関係が深く、この分野の研究者によるグローバル展開がこれからも重要になるであろう。しかし、「グローバル展開」とは何を意味するのだろうか。それには、どのような意義や困難・障壁があるのだろうか。また、研究者個人に求められる知識や技能とは何であろうか。異文化間教育研究のグローバル展開のために、学会にはどのような役割が期待できるだろうか。

本研修会は、これらの問題意識のもとに行われた。学会の会員・非会員を問わず、大学院生からベテラン研究者・実践者までが集い、国内外で精力的に研究成果を発信している研究者と日本から世界への学術的貢献を志す大学院生の経験に耳を傾け、活発な意見交換が行われた。

研修会の流れは、次のとおりである。まず、本報告文の執筆者である司会者の工藤が、上記の問題意識を共有しながら、本研修会の目的が、研究活動のグローバル展開の意義と課題を検討することであることを確認した。続いて、以下の話題提供が20分間ずつ行われた。

  • 徳永智子「地域貢献とグローバル展開のはざまで-越境する研究者の視点から-」
  • 櫻井勇介「私の国際経験の意味とこれからの国際活動」
  • 程文娟・猿田静木「国際的な学術活動を志向する大学院生はどのような葛藤を抱えているのか?」

徳永氏は、米国留学を経て参加型アクションリサーチと出会い、日米の実践者や研究者と関わりながら、ローカルとグローバルの両方の次元で研究成果を発表することの意義を語った。また、学会への期待として、国内外の研究者がつながり、社会変革を目指す新しい研究のアプローチや方法論を学ぶ機会や、多言語で積極的に研究成果を発信する機会の提供などに言及した。

櫻井氏は、自身がオーストラリアやフィンランドなどで受けた研究指導の経験を背景に、現在日本の大学院で行っているグローバル展開のための研究指導の様子を紹介した。そのうえで、国際学会発表や国際学術誌投稿などを意識する研究者のコミュニティづくりが日本の学会にも求められると論じた。また、SJRやDOAJなど、論文投稿先を検討する際に参考になる英文学術雑誌のデータベースのウェブサイトが紹介された。

程氏と猿田氏は、日本の大学院で博士号取得を目指して研究を行う立場から、研究の視野の拡張やキャリア形成にとってグローバル展開が重要であると語った。さらに、日英両言語での研究リテラシーの向上や国際学術コミュニティの構築が課題であることが示された。両氏の語りは、これらの力量形成のために、所属研究機関である大学院だけでなく、(異文化間教育)学会も果たせる役割があることを示唆する内容であった。

以上の話題提供に対して、工藤が研究活動のグローバル展開を考えるための概念的枠組みを示し、まとめに代えた。続いて、話題提供者への質疑応答が行われ、国際学術コミュニティの作り方や英語運用能力を高める方法などの具体的なアイデアが交換された。
その後は、4、5人ずつのグループでのディスカッションが約40分間行われた。

  • 問1 先ほどの話題提供から、あなたは何を学びましたか?研究活動のグローバル展開と関連付けながら、お考えください。
  • 問1 先ほどの話題提供から、あなたは何を学びましたか?研究活動のグローバル展開と関連付けながら、お考えください。

これらの問いのディスカッションを終えた後は、全体での質疑応答が20分間ほど行われ、司会者のまとめとともに研修会が締めくくられた。
研修会後の参加者へのアンケート(回答者数12)では、とくに上記の問2と関連して、以下のような具体的提案が寄せられた。

  • 中国語や英語を活用した文献講読や研究交流活動があれば、積極的に参加したいです。
  • 国際学会での発表・投稿を目的にしたライティング・リトリート[のような場を設定して欲しいです。]
  • さまざまな経歴・興味を持つ人たちがフラットな関係で繋がることができるような仕掛けづくり(分科会のようなものを作るなど)があると、日本の大学の指導教官のサポートやネットワークがない人たちも参加しやすく、もっと多様な発想や研究も生まれるのではないでしょうか。そのような場があれば積極的に参加したいです。

また、研修会全体の振り返りとして、「グローバル展開」への批判的且つ創造的なまなざしを向けることの重要性も指摘された。

  • 英語が世界の研究界の共通言語となっている現実がある以上致し方ないのかもしれませんが、そのような研究や教育のグローバル化のあり方に批判的な研究者の声も取り入れられればさらによかったのではないでしょうか。
  • すでに多くの学会でグローバル展開が議論されている。それらと異なる、異文化間教育学会ならではの視点を聞くことができればありがたかったと思う。

以上が本研修会の概要だが、ここで司会者兼企画者としての所感を述べておきたい。上記の参加者からのコメントにもあるように、近年は多くの学問分野で研究活動のグローバル化や国際化の在り方が議論されている。そのなかには、知識そのものの在り方を問う認識論の南北問題、英語(圏)の優位性に基づく言語文化帝国主義、国際学術誌の価格高騰に伴う最先端科学知識の寡占化などの課題がある。これらについては、本学会で蓄積されてきた文化と文化の相互作用を焦点化する「異文化間的視点」から概念的考察を深めることができるだろう。

より具体的な次元では、国際共同研究における研究者間の権力関係、研究で使われる概念の異言語間での通用性(翻訳可能性)、研究成果物のインパクトを高めるための技法、国際学術誌の査読者としての作法、不適切な研究成果の公開(いわゆるハゲタカ行為)の陥穽と防止策などが検討されるべきだろう。これらの個々の課題についても学会で活発な議論が展開され、有効な実践知が蓄積され、広く共有されることを切に願う。

最後に、今回の研修会の運営にあたっては、話題提供者の方々のご協力はもとより、学会事務局に全面的にご支援いただいた。グローバル展開委員会を代表して改めて感謝申し上げたい。

文責:グローバル展開委員長 工藤和宏(獨協大学)