第30/31回異文化間教育学会研修会

第30/31回異文化間教育学会研修会
「多様性の教育学」構築に向けた対話と研究のインクルージョン

案内
第30/31回異文化間教育学会研修会のお知らせ

研修テーマ

「多様性の教育学」構築に向けた対話と研究のインクルージョン

概要

 異文化間教育学会は、異なる文化の間で生じる教育の理論と実践に焦点を当て研究を行ってきました。今日、さまざまな場面で多様性について言及され、異文化間教育らしい営みと捉えられる実践や同じ「異文化間教育」というタームを使いながらも異なる志向性を持つ研究などが、本学会の外でも多様に展開されています。そうした本学会の外側で生み出されている「異なり」を包摂する研究・実践について、教育方法や特別支援教育、言語政策・言語教育、性の多様性に関わる研究者と対話する機会を設定しました。これにより、研究の新たな視点や今後の「多様性の教育学」構築に向けた対話と研究のインクルージョンの足がかりが得られることが期待されます。
 本研修会は、本学会の会員・非会員を問わずご参加いただくことができます。是非ご参加ください。

日時

第1回:2022年3月11日(金)19:00~21:00
第2回:2022年3月23日(水)19:00~21:00

開催方法

ZOOM(オンライン)

内容

第1回:2022年3月11日(金)

  • 特別支援教育の視点(特別支援・インクルーシブ教育):
    赤木和重氏(神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授)
  • 言語の視点(言語教育・複言語主義):
    山本冴里氏(山口大学国際総合科学部准教授)
  • 性の多様性の視点(クイア・ジェンダー):
    眞野豊氏(鳴門教育大学准教授)

第2回:2022年3月23日(水)

  • 教育方法の視点(教育方法・教科教育):
    原田大介氏(関西学院大学教育学部教授)
  • 性の多様性の視点(クイア・ジェンダー):
    渡辺大輔氏(埼玉大学基盤教育研究センター准教授)

定員・参加費

定員:会員50名(zoom)、非会員定員なし(YouTube Live)
参加費:無料

お申し込み期間と方法

以下のURLよりお申し込みください。
https://forms.gle/ksnqvKVQRTw1M3oBA

  • 会員の方につきましては、zoomでご参加いただき、当日はチャットなどでご質問いただくことが可能です。
  • 非会員の方につきましては、YouTube Liveで配信する形となります。

問い合わせ先

異文化間教育学会企画委員会(iesjkikaku[at]gamil.com [at]を @ に変えて下さい)

主催

異文化間教育学会企画委員会
渋谷恵(明治学院大学)・塘利枝子(同志社女子大学)・伊藤亜希子(福岡大学)・髙橋美能(東北大学)・南浦涼介(東京学芸大学)

報告
2021年度 異文化間教育学会 第30回研修会報告

「多様性の教育学」構築に向けた対話と研究のインクルージョン

◆日時:2022年3月11日(金)19:00~21:00
◆開催方法:オンライン(ZOOM)
◆企画運営:南浦涼介(司会・進行)、伊藤亜希子(登壇)
◆登壇者:
 赤木和重氏(神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授。インクルーシブ教育)
 眞野豊氏(鳴門教育大学准教授。性の多様性、クイア・スタディーズ)
 山本冴里氏(山口大学国際総合科学部准教授。言語教育、複言語主義)
◆参加者数: 総数111名 学会員:zoom参加50名 非学会員:YouTube Live 参加61名
※YouTube Liveに関しては最大視聴者数を示す。
◆進行:
 趣旨説明
 各登壇者の自己紹介(研究紹介)
論点1:良いコミュニケーションとは?
    登壇者が各々の研究に基づき考える「良いコミュニケーション」について述べ、それに応答していった。
論点2:インクルーシブ教育の実践とは何をどうすることなのか?
    インクルーシブということについて各々が意見を述べ、子どもの自尊心、学習権の保障という点が議論の後半で挙げられた。
◆振り返り:
 本企画は、異なる領域の研究者が自分の研究を紹介しつつ、同じ論点について気楽に気軽に話をし、ゆるやかに議論をしながら、他の領域との共通性や差異を見いだし、新たな研究の糸口を見いだすことができないかという趣旨の下実施した。
 今回は多様性にまつわるマジックワードに着目し、論点を3つ事前に登壇者に知らせ、それについて準備をしていただいた(上述の論点に加え、論点3:包摂と排除をどう考えていくのか)。同じタームを用いながらも、前提としていることが大きくことなることから、そのずれがはっきりとした雑談会となった(例えば、コミュニケーション論で言うところの規範とクイア・スタディーズで打破しようとする規範の相違)。
 こうしたずれは今後議論を展開する上で非常に興味深いものではあるが、参加者からの感想に「後半は残念ながら言っていることがよく理解できませんでした」と挙げられるように、そのずれがなぜ出てくるのかを整理する時間が必要だったように思われた。
 今回の2時間の対話で何か結論を見いだそうとしていたわけではないが、「自尊心」が落とし所になりそうな流れのなかで、参加者から「自尊心」がまさしくマジックワードではないかという指摘もあった。
 研究発表を行いディスカッションするといったものとはまた異なる形態で行うのは、今回が初めての試みであったため、企画者双方ともどのように受け止められるのか不安はあったが、アンケートや個別にいただいた感想からも好意的な反応を得られた。(文責・伊藤)

◆アンケート:
〇タームのずれについて

  • 一つのキーワードに対して、様々な領域の専門家の意見の相違が面白かったです。特に、「規範」を めぐる議論は、規範と捉えているものがそもそも違うだけでなく、規範が社会にどう位置づいているのかという点も異なっていて、勉強になりました。敢えて「メタ」的な概念を使うことの良し悪しを感じることができました。ありがとうございました。
  • 大変興味深く参加しました。異なる領域の方々の登壇ということで「円滑さ」はなくても、面白い種をたくさん見つけたと思いました。

〇他領域と対話することについて

  • 私は、英語教育・社会言語学が専門なので門外漢かなと思いながら参加したのですが、学びの多い会でした。一人一人の自尊心を大事にすることが、他者の尊重につながり、それがinclusiveな土壌を作るということに共感しました。それぞれの専門や教えている(携わっている)場は違っても自分の思いを伝えることで、専門や学会の境界を越えて共感し、それが自分の気づきを生み、力を生むのだなと思いました。
  • 私は日本語教育と発達障害の子どもたちの支援(放デイ)に携わった経験がありますが、「ある基準(規範も含め)から異なる」ということが、「欠如やマイナス」といった視点で「支援」が行われていることを疑問に思ってきました。あくまで、「欠如やマイナス」と価値づけられるのは、社会文化的な「ある基準(規範)」から見たからであって、それを「欠如やマイナス」として見ない評価の在り方もあるはずです。他の登壇者の方々のお話にあった通り、「欠如やマイナス」を「補填したりプラスの方向に変える」のではなく、「欠如やマイナスを見出す価値基準」自体を問えるような場を作っていくことは、インクルーシブ教育では大事なことだと思います。ただし、それには、教育機関に携わっている人々や教育実践を行う者自身の「教師観や教育観」自体から問うことになりますし、現行の教育システムや構造自体を変えていく必要があると思うので、なかなか一筋縄ではいかないのではないかと思います。そこに、教育現場を変えることの難しさもあるのだと、今までの経験から感じています。

〇実施形態について

  • やわらかな雰囲気で参加がしやすかったです。座談会形式、いいですね。
  • 研究者のスタンス(理論的な枠組み?)が最初に共有されたので、なぜこの発言をされるのかが分かり、5人のズレを面白く聞かせていただけました。学会✖️大喜利(funnyではなく、interestという意味で)✖️座談会の中間のような感覚で聞くことができ、新しい形態だなと思いました。ぜひ、続けて欲しいな〜と思いました。
  • zoomとyoutube選べるのはありがたかったです。欲を言えば日中の開催がありがたいです。
  • 学会という枠にとらわれずに、まさにインターセクショナリティが体現されているような議論がとても興味深かったです。

〇議論を整理する必要性

  • 前半の各研究者の方々の発表はそれぞれ個性的で有意義な内容でした。後半は、残念ながら言っていることがよく理解できませんでした。
  • 多様性の教育学という窓口の広いテーマであったため、たくさんの視点を学べた一方、論点が拡散してしまいまとまりに欠ける印象を受けた。研究途上ではあると思うので、時間をかけてある程度のまとめを頂ければと思う。
  • 非常に盛りだくさんな内容で充実した2時間であったと思います。
  • ただせっかく「マジックワード」をもとに議論をしていくということであったので、各領域ごとに「マジックワード」がどのように機能しているのかについての状況の共有やそれに対する批判的な検証を行うような場面もあってよかったのではないかと思いました。「良い〇〇」「理想的な〇〇」について共有することで、目指すべき方向性の共有を主軸にした議論を行っていくことを目指されたのだと思いますが、その結果として、最終的に「自尊心」という「マジックワード」でまとめられた感じもしていて、それは果たしてよかったのだろうか、と疑問が残りました。

報告
2021年度 異文化間教育学会 第31回研修会報告

「多様性の教育学」構築に向けた対話と研究のインクルージョン

◆日時:2022年3月23日(水)19:00~21:00
◆開催方法:オンライン(ZOOM)
◆企画運営:企画委員:伊藤亜希子(司会・進行)、南浦涼介(登壇)
◆登壇者:
原田大介氏(関西学院大学教育学部教授。教育方法・国語科教育)
渡辺大輔氏(埼玉大学基盤教育研究センター准教授。性の多様性、クイア・スタディーズ)
◆参加者数: 総数72名 学会員:zoom参加27名 非学会員:YouTube Live 参加45名
※YouTube Liveに関しては最大視聴者数を示す。
※ただし、YouTube Liveにアクセスしていた学会員も今回は多数存在する。
◆進行:
趣旨説明
各登壇者の自己紹介(研究紹介)
論点2:インクルーシブ教育の実践とは何をどうすることなのか?  
    登壇者が各々の研究に基づきインクルーシブ教育について考えを述べたが、通底するのは、人権、民主主義、反差別、差異の承認、格差の是正であった。
論点3:包摂と排除をどう考えていくのか
    包摂を考えるために排除のメカニズムを言語化すること、これが包摂の出発点になる。指導要領の捉え直しや発信を受け止める土壌づくりについて言及がなされた。
◆振り返り:
 本企画は、異なる領域の研究者が自分の研究を紹介しつつ、同じ論点について気楽に気軽に話をし、ゆるやかに議論をしながら、他の領域との共通性や差異を見いだし、新たな研究の糸口を見いだすことができないかという趣旨の下実施した。
 前回の内容を受け、参加者の重なりも見られたことから、今回は設定した論点のうち論点2と3について取り上げて話を展開することにした。
 今回は前回とは異なり、領域・対象は異なるもののアプローチの仕方や考え方などに共通性を見いだすことができ、全体として人権、民主主義、反差別というキーワードの下に議論が収束していくような形となった。しかしその一方で、共通性はあれどもそこにある差異性(教育課程の限定性のなかでどう巧みに取り組んでいるのか)を十分に浮き彫りにすることは叶わなかった。
 前回に引き続き、雑談会というイメージで行ったが、この実施形態について今回も好意的な反応をいただいた。また、領域の異なる方をお招きしての今回のような企画については、継続して実施してほしいという希望も出された。(文責・伊藤)

◆アンケート:
〇排除に関して

  • 両先生方のお話、とても響きました。排除されてしまうということがこんなにも日常的に、教育現場や、教材等を作る側で起こっていることを知り(辛すぎて、泣きそうになりました)、それがどういうことなのかを言語化していくことの大切さを再認識しました。自分の研究や実践で、誰を排除してしまっているのか、誰を含めているのか、を意識したいと思います。ありがとうございました。
  • 排除を言語化してくことの重要性の指摘は印象に残りました。現在の日本社会の新自由主義的価値観が蔓延していく中で、排除されることを「仕方がない」と思わされる部分があると思います。そんなとき、改めて「当事者」が言葉で排除を言語化することによって、その排除は不当なものであるとの気づきにつながるのではないかと思いました。
  • 多様性や包摂ということについて、最近学び始めたところですが、知人からの紹介で参加させていただきました。具体的なエピソードをふまえて、多様性や包摂、排除についてお話しされていることを聞き、いかに自分自身の身近なところに本質的な問題があるのかということに気づかされました。そういったところに気づけるのか、立ち止まって多様性や包摂について考えられるのかということを大切にし、私自身も追究していきたいと思います。

〇人権、民主主義、反差別、差異の承認、格差の是正といったタームについて

  • 教育研究の中で、少数民族問題を解決していくための中国政府の方針は、①差異の承認、…②差異の是正、克服とつながっていくというものがありました。つまり、差異の承認や是正ということばは使われる文脈により同化政策にも使われることがあるようです。
  • 韓国の学校における児童生徒の人権教育について研究しているのですが、そこで出てくる人権教育と日本の学校での人権教育の定義、文脈の違いがあります。一言で言えば、韓国の学校での人権教育とはシチズンシップ教育に近いものだということです。つまり、単に反差別教育ということではなく、生徒自身が権利の主体であることを意識させるような教育が行われているわけです。日本の学校でも人権教育実践として「教師による体罰は不当であることを生徒達に認識させる実践」を行っている先生がいます(同僚教師には極めて評判の悪い実践だそうですが)。人権とか反差別とかいった概念は差別を受けている人達のことを理解する教育だけではなく、自分達が人として尊重されるとはどういうことかを気づく教育が重要と思います。そのためには教師と教師の間、教師と生徒の間の関係性というものを見直していくという、制度そのものを見直していくことが必要と思います。今日の話ではこうしたこととのつながりを認識することができました。近年、ブラック校則が問題となっていますが、権利の主体として自身を認識するような取り組みが重要と思います。

〇立場や視点の違い、共通性に気づく

  • 大変おもしろい議論が展開されていました。それと同時に以前から異文化間教育学会のなかでも感じていた発達における教育学的な視点と心理学的な視点の違いも感じることができました。ありがとうございました。
  • 立場の違う登壇者の方々のお話やチャットでの知ることで、差別する人ではないという立場をとろうとするというコメントなど、とても気づきの多いお話でした。マイノリティーだけを取り立てる問題など今後意識していきたいと思います。

〇議論の方向性・在り方について

  • おそらく今回ご登壇になった三者の方向性が共有されていたからだと思いますが、全体的に議論が齟齬なくかみあっていてまとまっていた印象がありました。逆にいえば方向性が共通していたのか、分野ごとの違いが議論のなかで見えてくるということがなかったように思います。自分と同じような方向性で考えているけれども、他の分野で活躍している人たちが、現在どのような関心をもち何を考えているのか、をお互いに確かめ合っているような会であったように思います。
  • #1と#2の2回とも参加させていただきましたが、#1では「自尊心」が最終的に(合意を得たような)キーワードとなり、#2では「人権、反差別、民主主義」が三者の合意あるキーワードとなったように思います。そのような意味では、この#1での議論と、#2での議論をいかに対話させ「インクルージョン」「多様性」の教育についての全体像を描きだしうるのか、いかにそれらがマッピングできるのか、などを考えていけるとよいのではないか、と思いました
  • 皆さんの率直で洞察の深いご意見を伺えて、日本の学会でこういう会話がもっとあるようにしなければと思いました。同時に、お話下さった方たちの話にもあったように、このディスコースを好む人々のグループになってしまうと、閉じたコミュニティになり、現状の再生産になってしまいます。全ての人がマイノリティであり、マジョリティである、そこから始める。一つの方法が全ての人に同時にヒットして腑に落ちるわけでもなく、時間差の気づきもあり。でも、傷つき自分をさらに傷つける子どもたちを増やしてはいけないという焦りもあります。

〇実施形態について

  • 参加者が一緒に参加する企画も面白いですが、今日のように参加者はカメラをオフにして参加できるのも心理的負担がなく、自分のペースで参加できるので、よかったです。
  • 異文化間教育学会の会員ですが、あえてYouTubeを拝聴させていただきました。1回目はLive、2回目は翌日です。1回目もさがら、特に2回目は(動画を止めながら)自身の経験や考えを振り返りながら拝聴させていただきました。匿名性の高さ(力関係の見えなさ?)という気楽さもあったかと思います。この企画を運営される方々は大変な面も多々あるかと存じますが、同じスタイルの企画があれば、また参加させていただきたいと思いました。どうもありがとうございました。
  • このようなとても興味深いイベントを開催していただきありがとうございました。また、今回のような形にとらわれない座談会みたいな会を開いていただければと思います。

〇今後の継続希望について

  • 今後もぜひ領域を超えた方々による研修、継続していただきたいです。

〇テクニカルな面について

  • zoomに途中からアクセスしようと思ったら、できなかったの、YouTubeからアクセスしました。