2021年度特定課題 第1回公開研究会

異文化間教育学会第42回大会に向けた第1回公開研究会を、次の通り開催いたします。ふるってご参加ください。

特定課題研究テーマ 「異文化間教育は社会変革にどう貢献できるか―ポジショナリティに着目して―(仮)」

昨年の特定課題研究では越境する若者たちが「日本」という空間や「日本人」という集団をいかに経験し、意味づけているのかに迫り、「日本」を再想像していこうと試みました。そもそも異文化間教育学は既存の社会を問い直し、一人一人が暮らしやすい社会を創造していくために様々なテーマで研究がなされてきました。

そこで今回の特定改題研究では「ポジショナリティ」をキーワードにして異文化間教育が社会変革に貢献できる方策を提示していきたいと思います。社会を変えようと叫んだとき、どの立場から発せられた声かによってそれが持つ意味は異なってくると思われます。ポジショナリティに自覚的になることで個々人がどのように変われるのか、また社会を変えていけるのかについて構想していきます。

日時

2020年12月19日(土)14:00-17:00

開催方式

zoomを用いたオンライン開催

概要

 コロナ禍において、人々は先行きの見えない不安のまっただ中にいる。また、世界的な新型コロナウィルスの蔓延との闘いにおいて世界の主要国と言われる国々では軒並み国境を閉じたり、甚だしきは他国を非難したりといったことさえ行われており、およそ国家間の相互理解や国際協調というものとは無縁の状況である。日本国内においてもヘイトスピーチに象徴される排外主義や格差の拡大によって、国民の間に存在する分断は深刻化するばかりである。そんな中、多様な価値が認められる多文化共生社会の実現を志向してきた本学会としてもよりよい社会を創造するために何が出来るかについて議論し、それを実現していくのは喫緊の課題である。
 しかし、具体的に社会を変えるために何が必要なのかを示すことは難しい。誰もが変革を実感できるようなものとしては、法改正や新しい組織の創出といったマクロレベルでの変革が思い出されよう。これまでの特定課題研究でも「政策的視点からの異文化間教育研究―課題と展望―」(第49号)や「異文化間教育における政策と研究者の役割」(第51号)といったテーマが取り上げられ、異文化間教育における政策研究の重要性が示されてきた。また、「多文化共生は可能か」(第34号)では「共生」の対象が「文化」に矮小化されることへの警鐘を鳴らし、制度を変えることが提唱されるなど(馬渕2010、p.9)、マクロの視点から多文化共生社会を実現することに貢献する必要性が述べられてきた。
 一方で個人の生は社会制度とは独立した別のものではない。佐藤(2016、p.24)が「政策研究は直接社会変革を目指した政策の意思決定に関する研究のみならず、実践という場の変革を目指したミクロなレベルまで含まれる」と述べるように、考えてみれば生きるということ自体が政治とは無関係ではあり得えず、権力とは無関係で「中立的」な生は画餅に過ぎない。特定課題研究「異文化間教育と『臨床の知』―『文化的多様性』の実践に向けて」(第35号)では臨床の視点を入れた異文化間教育研究の特徴について3点示されているが、そのうちの一つに「変革性という視点」が挙げられている(佐藤、2012、p.20)。誰もが程度の違いこそあれ何らかの悩みや課題を抱えて生きているだろうし、悩みや課題が全くないという人であってもこれまでの自己を内省するなかで新たに課題を見出すこともあるかもしれない。本特定課題研究ではこうした個々の人々の実践を通じた社会変革の可能性について探究していく。池田(2016:334)が、アイデンティティの形成に大きな影響を与えるが故にポジショナリティは自己変革のための基礎条件にもなりうるとしているように、個人がどのような位置から社会の構造を認識し、そして発信を行うかに注目することはきわめて重要であると思われる。また、事例の提示にとどまることなく、社会変革のあり方や方向性についても示していくことを目指したい。
 こうした課題意識の下、①小林聡子会員からは教育の場においてどのように教育者であり研究者である自身が携わるかという点に着目した報告、②安場淳会員からは中国帰国者受け入れ実践から「異質な他者」との出会いに関する報告、③齋藤眞宏会員からは大学における教職課程での教師教育実践を行う「セルフ」を対象化した報告、をそれぞれ行っていただく。これらの報告に基づき、芝野淳一会員からの指定討論やフロアとの議論を通して異文化間教育が「社会変革」に資する方策を検討していく。

[引用・参照文献] 池田緑(2016)「ポジショナリティ・ポリティックス序説」慶應義塾大学法学研究会『法學研究:法律・政治・社会』第89巻第2号、pp.317-341
馬渕仁(2010)「多文化共生は可能か?―公開研究から大会、そしてその後―」『異文化間教育』第32号、国際文献社、pp.1-10
佐藤郡衛(2016)「異文化間教育学の到達点と今後の研究課題」佐藤郡衛・横田雅弘・坪井健 編『異文化間教育学大系 第4巻 異文化間教育のフロンティア』明石書店、pp.13-28
佐藤郡衛(2012)「臨床という視点からの異文化間教育研究の再考―「現場生成型」研究を通して―」『異文化間教育』第35号、異文化間教育学会、pp.14-31。

プログラム

  • ■話題提供者
    小林聡子(千葉大学)
    安場淳(中国帰国者支援・交流センター)
    齋藤眞宏(旭川大学)
  • ■指定討論者
    芝野淳一(中京大学)

申し込み・参加費

以下のフォームよりお申し込みください。申し込みされた方には電子メールにて開催日直前にzoomの接続IDをお送りします。
https://forms.gle/aLa633sFRTW3py9e8

お問い合わせ先:iesj_kenkyu2021[at]outlook.jp([at]を@に変更してください。)

参加費無料