2024年度 第1回公開研究会

乳幼児期に異文化間で育つとはどういうことか-複層的な視点でとらえる-

                                       研究委員会

主旨

 日本では1990年代頃から外国につながる乳幼児を対象とする研究が始まり、主に家庭内や保育所・幼稚園等での子どもの育ちに焦点を当てた研究がなされてきた。しかし、乳幼児期にはこうした場に加え、様々なところで様々な人々と関わりながら子どもは育っていく。そこで、本年度は「乳幼児期に異文化間で育つとはどういうことかー複層的な視点でとらえるー」をテーマとして設定する。

 こども基本法が2022年6月に成立し2023年4月施行、こども家庭庁が発足した。これにより、児童の権利に関する条約の理念に基づき、ようやくすべての子どもの権利を守る法体系が整備されたところである。「すべてのこどもは大切にされ、基本的な人権が守られ、差別されないこと」の「すべてのこども」には、外国につながる乳幼児も含まれている。

 本特定課題研究では、これまで異文化間教育学会であまり取り上げられてこなかった、乳幼児期の子どもの育ちを支える人や場にも焦点を当て、乳幼児期の子どもの育ちについて複層的に検討したい。具体的には、子どもとその家族、家族を支える人(保育者、子育て支援に携わる人、保健師等)、子育て支援の場(子育て広場、子育て支援センター、保健センター、医療機関、児童福祉施設、産前産後のサービス、自助グループ、図書館、役所、国際交流協会等)、幼児教育施設(保育所・幼稚園・認定こども園)等が挙げられる。ここに示されていない人、場、施設についても、テーマに沿うものであれば対象とする。

 AIが発達し人と人とのつながり・かかわりのあり方が変化していく現在の日本社会で、乳幼児期に異文化間で育つということについて、子ども、保護者、家族に出会う地域の人たち、医療従事者、支援者等様々な立場の視点から、取り上げていくことを想定している。

登壇者およびタイトル

  • 長江侑紀(東京大学大学院)
    「子育てを協働する保育者の異文化間コンピテンシー:多様な文化的背景のある子どもが通う保育施設からの示唆」
  • 田尻由起(筑波大学大学院)
    「文化的マイノリティとして発達障がいのある子どもを育てるとは -パリ在住の邦人家族の事例を通して-」

指定討論

塘利枝子(同志社女子大学)

日時

2024年1月8日(月)16時~18時00分(予定)

開催方法

zoom開催(要事前申込)

※申し込みをいただいた方に開催日2~3日前までにZoomリンクをお送りします。

申込方法

以下のGoogle Formへの入力をお願いします。

https://forms.gle/AcpQuaRosqeWCkDPA

※本研究会の参加は、異文化間教育学会の会員に限定させていただきます。予めご了承く ださい。

 今後、2024年6月の第45回大会での特定課題研究発表に向けて、第2回公開研究会を3月24日(日)午後にハイブリッドで開催予定です。対面会場は東洋大学赤羽台キャンパスです。合わせて、皆様の積極的な参加をお待ちしております。ご不明な点や質問がございましたら、iesj.research.2023@gmail.comまでお寄せ下さい。

2024年度 第1回公開研究会報告

第一回公開研究会 2023年1月8日

研究委員会

2024年度特定課題研究「乳幼児期に異文化間で育つとはどういうことか―複層的な視点でとらえるー」の第一回公開研究会は、2024年1月8日(月)16時〜18時に、オンラインにて実施され、当日は最大29名(内研究委員関係者8名)の参加があった。

本年度も公募形式で発表登壇者を募り、研究委員会メンバーで審査をし、子どもを取り巻く教育環境に焦点を当てる研究者2名(長江侑紀会員、田尻由起会員)が登壇者に選定された。指定討論者として塘利枝子会員が決定された。今回の公開研究会では、登壇者2名が「乳幼児期に異文化で育つ」をテーマに、自らのフィールドワークを通して得た知見を発表した。公開研究会としては上記の発表を踏まえ、複層的な視点から当該テーマに対する理解の幅を広げることをねらいとした。

前半では、初めに佐藤委員長による主旨説明、乳幼児期に育つ子どもを複層的な視点から捉えることの研究課題と意義について説明が行われた。その後、長江侑紀会員は「子育てを協働する保育者の異文化間コンピテンス:多様な文化的背景のある子どもが通う保育施設からの示唆」と題した研究発表を行った。長江報告では、保育者と外国にルーツを持つ保護者の協働においての異文化間コミュニケーション及びこれをめぐる諸課題、そして双方の対象者に求められる異文化間コンピテンスとは何かという問いを立て、エスノグラフィー手法で得た現場での経験をもとに議論した。

田尻由起会員は「文化的マイノリティとして発達障がい児を育てるとはーフランスでの事例を通してー」と題した研究発表を行った。その際、異文化、異国で子育てをする際に障がいのある乳幼児親子への発達的支援や課題などについて議論した。各発表後に、指定討論者である塘利枝子会員が改めて乳幼児期に異文化間環境で育つことの意味とそこからどのように複層的な視点へ発展するかの議論を提示し、今後どのようにデータを整理させ、研究を発展させていく必要があるかという点について論じた。

事後アンケートでは、複層的視点を持つこと、異文化間教育研究との意義、また乳幼児期における異文化間教育の重要性についてなどについて記載されており、本研究会が取り組むテーマへの参加者からの関心の高さが窺えた。なお登壇者の発表については、学会のYouTubeアカウントにて、2024年2月まで限定公開を実施する予定である。

今後は引き続き「複層的な視点と乳幼児期に異文化間教育を経験すること」に焦点を当てながら、乳幼児期の子どもを育てる人々を支える仕組み、環境、国境を跨がった地域性、風土や文化における違いなどを意識しつつ、議論を更に発展させていく予定である。