2021年度 第2回オンライン講演会

異文化間教育学会研究委員会では、2021年度特定課題研究のテーマ「異文化間教育実践における社会の共創―葛藤を抱えつつ―」を発展させることを目的として、海外在住者を含めた非学会員によるオンライン講演会(全3回、Zoomを活用)を企画しております。第2回の詳細と申し込みは以下の通りです。さまざまな学問領域の幅広い見解に触れるよい機会です。どうぞふるってご参加ください。

第2回オンライン講演会

日時

2021年2月27日(土)13:30-15:30

会場

zoom

概要

 「中国帰国者」とは、日中国交が締結された1972年以後に日本に永住(帰国)・定住した「中国残留日本人」とその家族のことを指す。ここでいう中国残留日本人とは、戦時中に中国大陸に渡った日本人が戦後も中国に「残留」し、日中国交の締結後に日本へ永住帰国した人たちである。法的には「中国残留邦人等」と呼ばれている。c 一般的には「中国帰国者」というと、1世の中国残留日本人は「日本人」、2世と3世は「中国人」と見られることが多い。本報告はそうしたナショナリティとエスニシティが交錯するポジションに立たされている中国帰国者の歴史的形成とその境界文化を紹介して、その境界文化の可能性について講演会参加者らと共に議論を深めていく。

講師

南誠氏(長崎大学准教授)
【略歴】専門は歴史社会学と国際社会学。主なテーマは中国帰国者の境界文化に関する社会学的研究であるが、人の移動と歴史記憶の国際比較研究にも取り組んでいる。中国残留婦人を祖母に持つ中国帰国者3世でもある。

申し込み

以下のフォームにご記入ください
https://forms.gle/xH6nScxYe3N2JW346
申し込み締め切り:2月25日(木)まで。お早めに申し込みください。
参加申し込みされた方には、前日までにZoom URLを含めた詳細をお送りします。

異文化間教育学会 2021年度特定課題に向けて 第2回オンライン講演会のご報告

 異文化間教育学会研究委員会では、2021年度特定課題研究のテーマ「異文化間教育実践における社会の共創―葛藤を抱えつつ―」を発展させることを目的として、海外在住者を含めた非学会員によるオンライン講演会(全3回、Zoomを活用)を企画しました。
 第2回オンライン講演会は、2021年2月27日(土)13:30~15:30に長崎大学多文化社会学部准教授の南誠氏より「『中国帰国者』の境界文化の可能性に関する一考察」と題した講演をいただきました。当日は非会員を含めて約43名の方々に参加いただき、好評を得ることができました。
 講演内容は、日本で一般的に言われる「中国残留日本人」の歴史の紹介から始まり、戦後、彼らが日本政府やマスメディアなどからどのように「名前の付与」や「意味づけ」がなされたかについて語られ、その結果として境界線が生成、維持されていく過程が示されました。講演者の研究は「中国帰国者」を境界文化という概念によって分析されたのが斬新であり、この部分は多くの参加者の共感を得たことが事後アンケートなどからも確認できます。
 講演の前半では、「中国残留日本人」の戦後における中国での経験の違いや、日本に引き揚げる時期の違い、そして日本政府の未帰還者に対する時期による対応の違いなどについて、わかりやすく説明がなされました。日本からみた中国からの未帰還者は当初、「救済」の対象であったのが、未帰還者特別措置法(1959)の成立を境にして「弔い」の対象とされ、そして日中国交締結後は「感傷の共同体」を作り上げることによって「中国帰国者」に対する多くの犠牲者的物語が創造されたということです。しかし、日本では社会的・制度的な差別構造の中で多くの困難に喘いでいると認識されている「中国帰国者」(実際、それも事実ではありますが)も、そうした語りによって包摂できない多様性をもっており、講演の中では「中国帰国者」の多様な生き様、人生について実例を用いながら紹介されました。
 講演の後半では講師の研究成果に基づいた、「中国帰国者」のみならず、日本社会自体の多様性を知るための教育実践の一端を紹介くださり、本学会での特定課題研究で「共創」を考える上で多くの示唆を与えていただきました。
 質疑応答や講演後のコメントなどでは、「中国帰国者」の世代や帰国時期による認識、体験の違いなどへの言及や、当事者による「境界の溶解」を目指す力の重要性などについて指摘されたものがありました。さらに、質疑応答時に講演者が語られた「国家の責任を問うことを当事者以外の人がどう引き受けるかが問われている」との指摘が印象深かったなどの意見もありました。全体として、参加者にとっても特定課題研究を準備するものにとっても非常に意義深い講演会であったといえるでしょう。今後、2021年特定課題研究を内実化させていくために、本講演会の意義を問い直していくことが求められます。

文責:研究委員会 出羽 孝行 (龍谷大学)