第33回異文化間教育学会研修会のお知らせ

テーマ「国際共同研究の意義と課題:成功の謎を紐解く」

概要

異文化間教育学会では、11月20日に「みんなで考えよう:異文化間教育研究のグローバル展開」と題して、グローバル展開委員会主催による研修会を開催しました。話題提供者や参加者とともに、海外研究者と連携する意義、研究成果を英語などの外国語で発信する目的や可能性、その葛藤や難しさなどについて考える機会となりました。特に、学会内での情報共有やメンター的なアドバイス・スキルアップの場があるとよいなどの意見が挙がりました。

そこで、グローバル展開委員会主催による第2弾研修会として、海外から講師をお招きし、国際的な共同研究プロジェクトに取り組む意義や課題、秘訣について、さらに考える場を提供いたします。

研修会は2部構成とし、第1部では、英国ダラム大学大学院教育研究科のプルー・ホームズ(Prue Holmes)氏にご講演いただきます。ホームズ氏は、ヨーロッパ圏内、中国および南米を拠点とする研究者との共同研究プロジェクトの経験が豊富で、指導する大学院生も多国籍・多言語に渡ります。

そのご実績や研究成果を踏まえて、①多領域、多言語、さらに国境をまたがる文脈で共同研究に取り組む意義、②言語的・文化的背景が異なる人たちがともに研究をする際の課題、③研究を通じて考慮すべき要素(例えば倫理的配慮、データ収集・分析・研究結果の示し方)などをお話しいただく予定です。

第2部では、ホームズ氏のご講演を踏まえて、参加者の方々のご関心・ご質問を活かしたディスカッションをおこないます。

本研修会が異文化間教育学会で扱う研究テーマ・分野における国際共同研究を促進・支援する機会となれば幸いです。ぜひ奮ってご参加ください。

開催日時

2023年2月14日(火)

【第1部】講演(質疑応答含む)17:30~18:30(60分)
講演者:プルー・ホームズ氏(英国ダラム大学教育研究科教授) 
タイトル:Engaging in international research collaborations: Implications for researching multilingually.
使用言語:英語(同時通訳つき)

【第2部】参加者によるディスカッション 18:40-19:30(50分)
内容:講演内容の振り返りとディスカッション(小グループによる話し合いの予定)
使用言語:日本語と英語

開催方法

ZOOM(オンライン)

講師

プルー・ホームズ氏 略歴

英国ダラム大学大学院教育研究科教授。異文化間教育(主に異文化間能力や間文化性<interculturality>の促進と教授法、移住・紛争の文脈における異文化間対話)や高等教育の国際化を中心に研究実績を持つ。近年は、The Arts and Humanities Research Council (AHRC)研究資金による2つのプロジェクト(Researching MultilinguallyおよびBuilding an Intercultural Pedagogy in Higher Education in Conditions of Conflict and Protracted Crises: Languages, Identity, Culture)の研究チームを率いた。この他に、UK Research and Innovation (UKRI)や欧州委員会の助成による多国間研究プロジェクトの共同研究者でもある。前述のResearching Multilinguallyに関わる研究は、The Politics of Researching Multilingually(Multilingual Matters, 2022年)として書籍化された。ダラム大学プロフィールページ:https://www.durham.ac.uk/staff/p-m-holmes/

定員

100名

参加費

無料

お申し込み期間と方法

  1. 以下のURLからお申し込みください。
    https://forms.gle/ok8yYi25mnPAGhKs9
  2. 参加受付が完了した方には、研修会の参加前に、ご登録いただいたメールアドレスにZOOMの招待リンクをお送りします。

問い合わせ先

misafu38[at]apu.ac.jp  [at]を@に変更してください。   

主催

異文化間教育学会グローバル展開委員会
工藤和宏(獨協大学)・徳永智子(筑波大学)・渡部由紀(東北大学)・筆内美砂(立命館アジア太平洋大学)

報告
研修テーマ「国際共同研究の意義と課題:成功の謎を紐解く」

 グローバル展開委員会

  • 日時:2023年2月14日(火)17:30-19:30
  • 講演者:英国ダラム大学大学院教育研究科 プルー・ホームズ教授
  • 開催方法:ZOOM(オンライン)
  • 使用言語:主に英語(講演のみ同時通訳つき)
  • 参加費:無料
  • 参加者:42名(講演者1名、グローバル展開委員4名を除く)

本研修会は、グローバル展開委員会が企画・実施した第32回研修会「みんなで考えよう:異文化間教育研究のグローバル展開」(2022年11月実施)に続く第2弾企画として、英国ダラム大学大学院教育研究科のプルー・ホームズ教授を招いてオンラインで開催された。前研修会では、「グローバル展開」というキーワードをもとに、海外研究者と連携する意義、研究成果を英語などの外国語で発信する目的や可能性、その葛藤や難しさなどについて意見が交わされた。また、研究者個人の知識や技能について、研究者間のメンターシップやスキルアップの機会が求められていることがわかった。

本研修会はこれらの課題も視野に入れて、より具体的に国際共同研究を促進・支援することを目指し、国際的な共同研究プロジェクトに取り組む意義や課題、秘訣について考える機会とした。本研修会は、会員・非会員を問わない参加形式とし、第1部ではホームズ教授の講演、第2部では同教授を交えての参加者によるディスカッションが行われた。

ホームズ教授はヨーロッパや南米、中国などを拠点とする研究者とともに、異文化理解促進や教授法などに着目した共同研究に幅広く携わっている。本研修会では “Engaging in international research collaborations: Implications for researching multilingually”というタイトルで、The RICH-Ed (Resources for Interculturality in Chinese Higher Education)プロジェクト(2017-2021年)の事例をもとにお話しいただいた。

このプロジェクトでは中国5大学、ヨーロッパ3大学から集まった研究チームが、中国の高等教育機関の国際化政策を受けて、中国の語学教員や大学職員の異文化能力を高めるトレーニングカリキュラムと教材を作成した。ヨーロッパのIEREST (Intercultural Education Resources for Erasmus Students and their Teachers、2012-2015年) プロジェクトが基盤となっており、関連論文はLanguage and Intercultural Communication誌に出版されている。

ホームズ教授が国際共同研究について強調した点の一つは、共通認識の構築プロセスの大切さであった。The RICH-Ed プロジェクトでは、研究者それぞれの職務や研究経験、研究における使用言語運用能力(この事例では英語)や研究に注力できる度合いの違い、またそもそもの研究目的や期待が異なったことなどが、研究チーム編成後に直面した課題だったと言う。また、研究者間の対等性を構築する難しさも紹介された。

具体的には、ヨーロッパの取り組みに倣おうとする姿勢が中国側から感じられ、西欧優位的な関係性を変えづらかったことや、西欧と中国の学術的・哲学的見解を十分に融合できなかった点が紹介された。また、概念的・理論的解釈にも違いが見られ、プロジェクトの方向性にずれが生じる場面もあったと言う。実際、研究チーム発足時に、お互いの専門や理論的枠組み、研究者としてのポジショニングや視点を共有する機会を対面で設けたものの、依然として乖離があったとのことだった。

キックオフミーティングに参加できなかったメンバーがいたり、コロナ禍によってオンラインコミュニケーションへの移行が生じたりしたことも少なからず影響しているであろう。対面での話し合いの必要性を含めて、お互いの共通認識を早い段階で共有・話し合い、対等な関係性や理論構築に取り組める態勢作りが要となることが示された。また、理想通りには研究が進まないことも踏まえて、柔軟に向き合う姿勢が必要であることも言及された。

ホームズ教授は、文化的違いを解説・橋渡しできるメンバー(“Ally”的役割を果たせるメンバー)がいることの重要性も強調された。ホームズ教授自身、中国での教育・研究経験があったものの、研究メンバーとの話し合いの中で状況や反応を理解できない場面もあり、その際の助言者の存在が大きかったと言う。研究チームの構成を慎重に選定することと合わせて考慮しうる点であろう。

この講演後は、ホームズ教授を交えてのディスカッションが行われた。講演が予定時間(60分)を越えたため、話し合いの時間が約30分に縮小されたことは惜しまれるが、参加者からは感謝や前向きなコメントが寄せられた。以下、アンケート(回答数7件)から自由記述の部分を紹介する。

  • 具体的に表面には出てこないコラボレーションの苦労や試行錯誤の話を聞くことができました。文献や記事には出てこない内容だったため、とても参考になりました。
  • 実際にThe RICH-Edプロジェクトでうまくいかなかったことなどを誠実に報告してくださった。欧州の方のご意見が新鮮だった。
  • とても勉強になりました。Prof. Holmes shared very honestly her experience. This was very enlightening.
  • 海外の異なる社会体制における研究者や教育者との共同研究で経験する難しさが良く伝わってきました。また、power struggleはどこにでもあるのだとしみじみ感じました。特に質疑応答では、対立する意見を出しにくい文化的背景の人たちと、対立する意見をたたかわすことに意義とおもしろさを感じる文化的背景の人たちとのズレは私も以前に経験したことがあり、思い出しながら聞かせていただきました。しかし、またそのような経験を通して新たなアプローチ、価値観、仕組みを創造することにつながっていく可能性への示唆もあったようで、出会いをどのように生かしていけるのか、研究者個々の力量にかかっているのか、考えさせられました。非会員でも参加させてくださったことに感謝いたします。

最後に、国際共同研究の意義とあり方に関して、講演後に参加者から挙がった意見も踏まえて一言述べたい。国際共同研究では、研究者自身が共同研究者との関係性の中で、自ら省察的に取り組む姿勢がいっそう求められ、研究チームの文化的・言語的文脈や力関係も踏まえて、自身がどのような立ち位置で臨み、歩み寄るかが試される。ホームズ教授は対等な関係性を期待して共同研究者と接する姿勢を見せながらも、いかにそれが難しかったかを述べられていた。欧米に傾斜しがちな力関係に働きかけ、文化的差異を汲みながら対話を進める共同研究は、研究者自身の異文化感受性と実践力が問われるだけでなく、さらに培われる機会でもあることを考える時間となった。

本研修会を開催するにあたって、講演でお力添えいただいた通訳者、エルビーニア・ユリア氏と林大介氏、また学会事務局に心から感謝申し上げたい。今後、会員の国際共同研究を支援するために、会員の知見や経験を共有する機会が広がり、新たな研究活動が展開されることを期待したい。

文責:グローバル展開委員 筆内美砂(立命館アジア太平洋大学)