2023年度 異文化間教育学会 特定課題研究テーマ

「移動」から異文化間教育研究を展開する―象徴的移動に着目して―

オンライン講演会

特定課題研究『「移動」から異文化間教育研究を展開する―象徴的移動に着目して―』における重要な概念である「実存的(存在論的)移動性」について、慶應義塾大学の塩原良和氏にご講演いただきます。さまざまな学問領域の幅広い見解に触れるよい機会です。皆様ふるってご参加ください。

日時

2023年3月4日(土)13:00-15:00 (参加申し込み締め切り:3月2日(木))

開催方式

Zoomを用いたオンライン開催

講演タイトル

「異文化」の理解から「異なる世界に生きる人々」の理解へ―実存的移動性とリアリティの越境について

講演の概要

異文化間教育、あるいは多文化共生を、「実存的(存在論的)移動性」という視座から考えてみることで、「異文化/多文化」を「理解する」という営みそのものへのオルタナティブな思考が促されていきます。本報告ではガッサン・ハージによる「多現実主義」の提案を導きの糸に、そのような発想と思考法の転換の可能性と重要性を提起してみます。そのうえで、それが「教育」という実践に与える含意を、「越境」というもうひとつのキーワードとともに、オーディエンスのみなさんとともに考えていけたらと思っています。

講演者プロフィール

塩原良和(しおばら よしかず)
1973年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。博士(社会学)。専門領域は社会学、国際社会学、社会変動論。研究関心は多文化主義/多文化共生の理念と政策、日本およびオーストラリアの外国人住民/移民に対する政策とその社会的文脈など。主著に『分断と対話の社会学』(2017)、『分断するコミュニティ』(2017)、Cultural and Social Division in Contemporary Japan(共編著、2019)、訳書に、ガッサン・ハージ『オルター・ポリティクス』(共訳、2022)など。

申し込み

https://onl.bz/NHhWKXS
締め切り:3月2日(木)
*非会員の方もお申し込みいただけます。

また、2023年6月に開催される第44回大会特定課題研究に向けた第2回公開研究会を3月26日(日)に開催予定です。詳細は追ってメーリングリスト等でお知らせします。

お問い合わせ

iesj.research.2021@gmail.com (研究委員会)

異文化間教育学会 2023年度オンライン講演会報告

研究委員会

 

2023年度特定課題研究「『移動』から異文化間教育を展開する―象徴的移動に着目して」のオンライン講演会を、2023年3月4日(土)13時〜15時に実施した。当日は58名(申し込みは96名:会員65名、非会員31名)の参加があった。

オンライン講演会では、塩原良和氏(慶應義塾大学)をお招きし、特定課題研究のテーマである象徴的移動の議論をさらに発展させることを目的にご講演いただいた。講演のタイトルと概要は以下の通りである。

【講演タイトル】「異文化」の理解から「異なる世界に生きる人々」の理解へ

―実存的移動性とリアリティの越境について

【講演概要】異文化間教育、あるいは多文化共生を、「実存的(存在論的)移動性」という視座から考えてみることで、「異文化/多文化」を「理解する」という営みそのものへのオルタナティブな思考が促されていきます。本報告ではガッサン・ハージによる「多現実主義」の提案を導きの糸に、そのような発想と思考法の転換の可能性と重要性を提起してみます。そのうえで、それが「教育」という実践に与える含意を、「越境」というもうひとつのキーワードとともに、オーディエンスのみなさんとともに考えていけたらと思っています。

講演の前半では、塩原氏の共訳書であるガッサン・ハージ『オルター・ポリティクス』(2022、明石書店)の視座をベースとした論考が共有された。特に、「異文化」「多文化」という言葉を前提として「異文化理解」や「多文化共生」を考えることの問題性に触れながら、そのオルタナティブとしての多現実主義について説明がなされた。後半は、「『移民』とは誰のことか?」「『難民』とは誰のことか?」という具体的な問いを通して、戦後日本社会における「日本人/外国人の二分法」言説を乗り越える思考法・発想の転換の仕方についての提案があった。

その後、1時間ほど、質疑応答を行った。質問・コメントは共有のスプレッドシートを用い、参加者からの質問に対して塩原氏が1つずつ回答を示していった。

事後アンケートからは、参加者が自身のこれからの研究や教育といった活動にも示唆に富むものであり、大変充実した時間となったことがうかがえた。以下にアンケートの感想を抜粋して紹介する。

  • 「社会的統合のための価値観の共有の強要」を前提としない「共生」の在り方、そして、そのために他者とリアリティを共有し、同じ現実を生きるという考え方を知ることができ、大変勉強になりました。
  • 共生の現場に身を置いていると、ただの夢物語のように思われることもあり、塩原先生のお考えを理論的背景とさせてもらうことがしばしばあります。特にQ&Aの中で共約不可能性の話をした時に、リアリティを共有しないことは最初から消去・いないものとみなしてしまう、という話は、非常に説得力がありました。存在を意識しなければ、それは見えなくなり、分かり合えないことも苦ではなくなるという状況は、様々な場面で感じることがあります。それを共生と言えるのか、という疑問が常にありましたが、存在を認めリアリティを共有することの必要性を改めて感じました。
  • 視点を変えることで、分断そのものがないリアリティーが存在するという考え方はまさに必要だと思いました。

2月の特定課題研究・公開読書会から続けて参加された参加者からは、「公開読書会⇒著者・訳者ゲストの講演会という流れが大変充実していました」、「『移動』をテーマに読書会、講演会と学んでいくので、様々な見方から考えることができ、大変有意義だと思います。」といった声が寄せられた。

また、講演内容については、2023年3月22日〜2023年4月15日までの期間、学会のYouTubeにて限定公開を実施した。

本講演会は、特定課題研究のテーマである象徴的移動や実存的移動性について、日本の文脈に触れながら理解を深めるよい機会となった。今後の課題は、本講演会の内容を受け、2023年6月の第44回大会 特定課題研究に向けて、第二回公開研究会を実施する中で、いかに建設的、発展的に議論を積み上げていけるのかであろう。