2023年度 異文化間教育学会 特定課題研究テーマ

「移動」から異文化間教育を展開する−象徴的移動に着目して-

第2回公開研究会

主旨

 2023年度の特定課題研究テーマは「『移動』から異文化間教育研究を展開する−象徴的移動に着目して」である。「象徴的移動」を切り口として、異文化間教育研究における移動の多様性と複雑性を捉えるための議論の展開を目指す。

 本研究会では、さまざまな象徴的移動に焦点を当てた3つの発表を手がかりに、登壇者と参加者を交えた意見交換を行う。会員間で象徴的移動に関する議論を重ね、人々の移動に関心を寄せてきた異文化間教育学研究の新たな展開を共に提起していくことを目指す。

登壇者およびタイトル

小林元気(鹿児島大学)
「異文化間移動を解剖する─日本人若年層のグローバル・マインディッドネスを焦点として─」

塩入すみ(熊本学園大学)
「技能実習生と生きる人の存在論的移動ー農業経営者へのライフストーリー・インタビューからー」

山崎哲(一橋大学大学院)
「⾒えにくいマイノリティの移動をめぐる内的世界を照らす―中国帰国者三・四世のライフヒストリーを手がかりに―」

総括討論

郷司寿朗(長崎大学)
川島裕子(大阪成蹊大学)

日時

 2023年3月26日(日) 9:30〜12:30

開催方法

zoom開催(要事前申込)

申込方法

https://forms.gle/1JWGskwbVJmru92j8

※非学会員もお申込みいただけます

 今後、2023年6月の第44回大会での特定課題研究発表に向けて、2月に公開読書会、そして3月にオンライン講演会を開催します。合わせて、皆様の積極的なご参加をお待ちしております。(※非学会員もお申込みいただけます)。

2023年度 第2回公開研究会報告

第2回公開研究会 2023年3月26日

                                   研究委員会

 2023年度の特定課題研究テーマは「『移動』から異文化間教育研究を展開する−象徴的移動に着目して」である。「象徴的移動」を切り口として、異文化間教育研究における移動の多様性と複雑性を捉えるための議論の展開を目指す(https://www.intercultural.jp/research/research-new/)。

 本研究会は、2023年3月26日(日) 9:30〜12:30にオンラインで実施され、30名程(内研究委員関係9名)が参加した。特に昨年度の特定課題研究の流れや第一回公開研究会での議論を踏まえて、①「象徴的移動」を捉える際の研究方法論的立場、②自分の研究で着目する「象徴的移動」の側面とその内容、③「象徴的移動」の概念の導入によって明らかになったこと、の3点に焦点を当てた。さまざまな象徴的移動に焦点を当てた3つの発表であるが、登壇者と参加者を交えた意見交換をすることで、異文化間教育研究において移動概念に焦点を当てることの有用性をより明確にすることを目指した。

 前半は、芝野会員による趣旨説明の後、3人の登壇者から20分ずつ話題提供を行った。小林元気会員は「異文化間移動を解剖する ──日本人若年層のグローバル・マインディッドネスを焦点として──」というタイトルで、象徴的移動をグローバルマインデッドネス構築のための要因として定量的に分析することに関して議論した。続く塩入会員は「技能実習⽣と⽣きる⼈の存在論的移動 ー農業経営者へのライフストーリー・インタビューからー」のタイトルで、熊本にてアジアからの技能実習生を受け入れる農家や工場の人々が経験する移動(不)可能性に関して報告した。また、山崎会員は「⾒えにくいマイノリティの移動をめぐる内的世界を照らす ―中国帰国者三・四世のライフヒストリーを⼿がかりに―」のタイトルで、ルーツを秘匿することで日本社会における移動性を確保することなどについての事例を提示した。各発表の後、川島裕子会員が「象徴的移動とは何か」、そして郷司寿朗会員が「なぜ象徴的移動(存在論的移動)なのか」というテーマで指定討論を行い、3名の発表における象徴的移動という概念の整理やその有用性について論じた。

 後半は、登壇者毎に3つのグループを設定した上でランダムに参加者を分け、「『象徴的移動概念』を導入する意義とは何か」に関してブレーンストーミングを行った。いずれのグループも互いの意見を可視化しながら活発な議論を展開していった。

 事後アンケートの回答数は少なかったものの、参加者が本テーマに関心を持ち、学びを深められたことがうかがえた。「象徴的移動」という広い概念の可能性を検討しながら進めてきた本テーマであるが、本概念に着目したことで「目に見えて移動する者だけではなく、移動しない者も同時に見ていくことができるという点で有用だ」という意見があった(事後アンケート)。その一方で、「『移動』ではなく『変容』の方が分かりやすいのではないか」という疑問もあがった(研究会での全体振り返り)。今後、第44回大会(於:東京都立大学、6月10日(土)9:30〜12:00)に向けて、「何らかの方向性」を持つ「移動」という概念の理解を深め、整理しつつ、議論を発展させていく。 なお、第二回公開研究会の内容については、学会のYouTubeにて2023年5月末まで限定公開を実施する(https://youtu.be/K_85sylcKrc)。